ZEH-M(ゼッチ・マンション)をご存じですか?ZEHは戸建てだけでなく、マンションでも定義されています。環境問題は社会全体の課題であり、多くの住民を収容する集合住宅こそ本気で向き合う必要があるからです。しかし、環境意識が高い住民や投資者でも、ZEH-Mを知らない人はまだまだ多いでしょう。そこでこの記事では、ZEH-Mの基本概念から、その種類と特徴、そして断熱性や省エネ、太陽光発電の導入方法について解説します。エネルギー消費が少ないマンションに住みたい方、環境に優しい持続可能なマンションを建てたい投資家の方はぜひ最後まで読んで知識を身につけましょう。
ZEH-Mは「Net Zero Energy House Mansion(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)」という名の通り、年間のエネルギー収支をゼロかそれに近づけることを目的とした共同住宅です。壁や床、窓には断熱効果の高い材料が使用され、省エネ型のエアコン、照明、給湯器などの設備の導入により消費電力を抑えます。そして、屋根や壁面に太陽光パネルを設置することで、エネルギーを自ら生み出します。余剰電力については販売や共有もできる省エネ効果の高いマンション、それがZEH-Mです。
ZEH-Mの定義は、以下の3つです。
この基準はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と全く同じ基準です。以下にて詳しく解説します。
外皮とは、建物の外壁、床、天井、屋根、窓、ドアなど、熱的境界に位置する部分の総称です。強化外皮基準は外皮からの熱の伝わりやすさを表し、断熱性能を評価するための重要な指標です。
性能指標は主にUA値とηAC値で判断されます。UA値は「外皮平均熱貫流率」で、値が小さいほど断熱性能が高いとされます。ηAC値は「冷房期の平均日射熱取得率」であり、この値も小さいほど太陽日射が室内に入りにくい、すなわち遮蔽性能が高いとされます。これらの値は地域区分ごとに規定され、基準値以下でなければなりません。
ZEHのUA値の基準が、一般の省エネ基準よりも厳格です。例えば、ZEHでは地域によって0.4以下、0.5以下、0.6以下とUA値が定められています。対照的に、省エネ基準では最も厳しい地域で0.46以下、緩い地域で0.87以下が求められています。
一次エネルギーとは、石油や天然ガスなど、自然界に存在する資源から直接エネルギーに変換される形態のエネルギーです。この一次エネルギーの基準を20%以上削減することがZEHの要件となり、そのためには高効率設備の導入が必要です。
断熱性能の強化だけでなく、冷暖房、給湯設備のエネルギー効率も高めることで消費エネルギーの削減を図ります。例えば、エアコンはエネルギー消費効率が高い機種を選び、給湯器はコージェネレーションシステムやヒートポンプを用いたタイプを選ぶと効果的です。
最後に、自家発電設備を導入し、一次エネルギー消費量を100%以上削減する必要があります。断熱を高め、高効率設備で消費エネルギーを抑え、そのエネルギーは全て発電がまかなうということです。太陽光パネルを屋根や壁面に設置することで、自家発電が可能となり、余ったエネルギーは売電、または共有することもできます。
太陽光以外にも、風力発電やエネファーム(燃料電池)などのオプションもありますが、これらのシステムは単独で大量のエネルギーを生み出せないので、太陽光発電と併用するのが現実的です。災害時の使用などもできることから、これら再生可能エネルギーの需要は高まっています。
ZEH-Mには以下4種類があります。
それぞれ省エネの基準が異なり、建物の規模に合わせて実現可能なタイプが分かれています。また、住棟と住戸それぞれの評価をすることもZEH-Mの大きな特徴です。
断熱性能:強化外皮基準(地域ごとに定められたUA値を強化した省エネ基準)
一次エネルギー消費量の削減率:20%以上
再生可能エネルギーによる省エネ率:100%以上
対象となる住棟:1~3階建
断熱性能:強化外皮基準
一次エネルギー消費量の削減率:20%以上
再生可能エネルギーによる省エネ率:75%以上100%未満
対象となる住棟:1~3階建
断熱性能:強化外皮基準
一次エネルギー消費量の削減率:20%以上
再生可能エネルギーによる省エネ率:50%以上75%未満
対象となる住棟:4~5階建
断熱性能:強化外皮基準
一次エネルギー消費量の削減率:20%以上
再生可能エネルギー導入不要
対象となる住棟:6階建以上
(参考:2023年の経済産業省と環境省のZEH補助金について より)
ZEH-Mには4種類の補助金があります。
それぞれの補助額や条件は以下の通りです。
(参考:2023年の経済産業省と環境省のZEH補助金について より)
2030年にZEHが標準化される流れの中で、ZEH-Mも注目を集めています。技術が進んで再生可能エネルギーの価格が下がることで、多くのマンションや共同住宅でもZEH-Mの導入が現実的になってきています。
初期投資の負担も減り、設備のエネルギー効率と耐久性も向上しています。これにより、ランニングコストの削減も期待でき、ZEH-Mはより入居者にとっても経済的な選択肢となりつつあります。
ZEH-Mには以下のようなメリットとデメリットがあります。
ZEH-Mの大きなメリットの一つは、ランニングコストが安い点です。熱が逃げにくく、エネルギー消費が少ない設備を使用するため光熱費が大幅に削減されます。特に、再生可能エネルギーを活用することで電力供給が安定し、電気料金が下がります。長期的に見て、生活コストの軽減につながるのは間違いありません。ZEH-Mは光熱費が低く抑えられるので、経済的にも魅力的な選択肢と言えます。
ZEH-Mは不動産としての価値が高くなります。環境問題や光熱費高騰が叫ばれる今、省エネ性能や環境への配慮は今後ますます重視される傾向にあるからです。再生可能エネルギーの導入や優れた断熱性能は、将来的にリセール時の価格にも大きくプラスに働く要素です。さらに、環境意識の高い人々からの需要も見込め、賃貸市場でも高い人気があります。不動産としての投資価値を考えても、ZEH-Mは購入者や投資家にとって魅力的です。
ZEH-Mは、環境に優しいという利点があります。再生可能エネルギーの利用や高い断熱性能により、CO2排出量が大幅に削減されます。これは地球温暖化の防止に貢献し、持続可能な社会づくりに繋がります。特に、エネルギーの収支をゼロに近づける設計は、資源の有効利用を促すとともに、環境への負荷を最小限に抑えます。このように、ZEH-Mは環境にも配慮した住まいを提供します。
ZEH-Mは、室内が快適です。高い断熱性能と省エネ設備の組み合わせにより、冷暖房がよく効きます。これにより、室温が一年を通じて安定し、快適な居住空間が実現します。脱衣所や玄関まで温度環境がよくなると快適性が増すだけでなく、身体への負担も軽減します。特に真冬の脱衣所は、交通事故の4倍もの死傷者が出る危険ゾーンです。室内の温度差を小さくするZEH-Mで快適で健康的な居住性を確保しましょう。
一方で、ZEH-Mのデメリットは以下の通りです。
ZEH-Mは初期投資費用が高くなります。断熱材の充実や省エネ設備、太陽光発電などの導入にはそれなりのコストがかかるからです。ランニングコストは低減されるため、長期的に見れば経済的にも相殺できます。しかし、短期間での回収を求める場合には、初期投資の高さがハードルとなることも考慮に入れるべきです。
ZEH-Mは、メンテナンスコストがかかる点がデメリットです。省エネ設備や太陽光発電システムは高性能な分、定期的な点検やメンテナンスが必要になります。特に太陽光パネルは修理に足場を要するため、メンテナンスにはかなりの費用がかかります。これらのメンテナンスコストは、ランニングコストの低減によって相殺されることが多いですが、維持管理が必要なことを忘れてはいけません。
ZEH-Mはプランの自由度が制限される場合があります。エネルギー効率を高めるための特定の設計や設備が必須となることで、建物の形状や間取りに制約がかかることが多いからです。例えば、外皮基準を満たすために窓の断熱性能やサイズを限定して設計する必要が出てきたり、太陽光パネルを効率よく設置するための屋根の形状や方角などを決めたりする場合があります。そのため、自由な設計や独自のアイデアを取り入れるのが難しくなることも。このような制約は、特に個性的なデザインや機能を求める場合に影響を与える可能性があります。
省エネの重要性や環境問題への配慮は今後ますます高まることが予測されます。気候変動の進行、エネルギー資源の枯渇、持続可能な社会づくりの必要性などが背景にあり、個々の住宅から大規模な施設まで、エネルギー効率の向上が求められています。
ZEH-Mなどの省エネ住宅は、個人だけでなくコミュニティ全体、さらには地球環境に対しても優しい建築物になります。短期的なコストだけでなく、長期的な利点を考慮すると、そのメリットは明白です。ZEH-Mをはじめとする省エネ住宅は今後のスタンダードとなり、さまざまな形で推進されるでしょう。