「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」は、非住宅建築物に関する省エネの基準を定めた制度です。
その歴史は2017年の4月1日から始まっていて、「適合性判定」と呼ばれることもあります。
もう少し詳しく「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」について見ていきましょう。
「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」で取り上げられている「非住宅」とは、その名前の通り、人が住む「住宅」以外のことを指すものです。たとえば、モール街や工場、倉庫や店舗などがこれにあたります。なお、たとえその広さが大きいものであっても、人が住むことを主目的としているマンションなどは、当然のことながら、「非住宅」には分類されません。
ちなみにここでは大きくは取り上げませんが、「非住宅」と「住宅」では固定資産税なども変わってきます。
続けて、「大規模な」の意味について解説していきます。
ここで挙げる「大規模な」という言葉は、観念的・抽象的なものではなく、明確な数字上の基準があります。その基準が、「2000平方メートル」というものです。坪数に換算した場合は605坪程度となりますから、この数字が以下に「大規模な」ものかが分かるでしょう。
「大規模な非住宅建築物の省エネ基準(とその改正)」は、簡単に分かりやすくまとめるのであれば、
・「人が住むこと」を目的としていない場所(工場など)で
・かつ広さが2000平方メートル(605坪)以上のものの省エネ基準に関する制度であり
・制定後7年後にあたる2024年に改訂されるものである
といえるでしょう。
上記でも述べたように、「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」は2024年の法改正によってその制度が変わります。
2024年の法改正のベースとなる話し合いは、実は2021年にすでに行われていました。2021年の10月に閣議決定されたものが、2024年の法改正の元となっているわけです。
この法改正は、「地球環境のさらなる改善のために」「より良い地球環境を作るために」という目的で行われました。省エネを初めとする地球環境改善のための法律・制度は、時代が経つに従いより厳しくなっていっていますが、「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」もまた、そのような変化を辿った法律・制度のうちのひとつだといえるでしょう。
ここからは、具体的に「それではどのような点が変わったのか」について解説していきます。
まず、現行の制度では、BEI(一次エネルギー消費量基準。詳しくは後述)は1.0以下と定められています。
しかし改正後の大規模な非住宅建築物の省エネ基準では、「2000平方メートル以上の工場などはBEIが0.75以下、事務所や百貨店などは0.8以下、病院や飲食店などは0.85以下にしなければならない」と定められました。
ちなみに2000平方メートル以下の中・小規模の非住宅建築物に関しては、1.0のまま据え置かれています。また、年間熱負荷の基準は「諸般基準」というかたちで定められていますが、これも改正前と同じ数字が維持されることになりました。
このような法改正後の数字を見れば、「大規模の非住宅の場合、用途によって多少の違いはあるものの、現行法に比べてその基準はすべて厳しくなる」ということが分かるでしょう。
年間熱負荷の基準や、中小規模の非住宅に関しては変更はないものの、今後大規模な非住宅を運用しようとした場合は、今までよりもさらに厳しく「地球環境への配慮」が求められるわけです。
この「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」の法改正が行われた後であっても、業者が取るべき手続き自体には変更はありません。そのため、
ただし「大規模な非住宅建築物の省エネ基準」を満たさなかった場合、罰則があることには注意が必要です。また、そもそも基準をクリアしていない場合は、工事自体に着工することができません。
上記では「BEI」などの言葉を取り上げましたが、ここではこの言葉の意味などを紹介しつつ、現在の日本の状況について解説していきます。
「BEI」は“Building Energy Index”の略称です。これは、建物省エネ法を考えるうえで非常に重要な指標です。
BEIは、「設計一次エネルギー消費量(その建物の設計仕様で求めた、建物が使用するエネルギーを熱換算した数字)」を、「基準一次エネルギー消費量」で割ることで求められるものです。
このBEIの値が小さければ小さいほど、その建築物は省エネ性能に優れているといえます。
さて、このBEIと関わるものとして、「ZEB」という単語があります。これは“Net Zero Energy Building”の略称であり、「ゼブ」と発音するものです。
ZEBは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」を意味する言葉であり、BEIがゼロもしくはマイナスの非住宅建造物に対して与えられる名称です。なお、「ZEB」を冠した言葉にはいくつか種類があり、「Nearly ZEB(BEI0.75以下)」「ZEB Ready(BEI0.5以下)」などの基準もあります。
ちなみに、ZEBと非常に似た意味を持つ言葉として「ZEH(“Net Zero Energy House”)」がありますが、こちらはZEBとは異なり、「住宅」を対象としたものです。
さて、このような数字を持ち出すとき、しばしば「日本は省エネ対策がまだまだなっていない」「エネルギーを無駄遣いしているから、『大規模な非住宅建築物の省エネ基準』などのような制度が作られたのだ」という誤解がされがちです。
しかし現在の日本の状況は、決して劣悪とまではいえません。現段階ですでに工場のうちの90パーセント近くは、新基準であるBEI0.75以下を満たしています。また、百貨店などの場合も、そのうちの70パーセント程度はBEI0.8以下に適合しています。
病院のうちの55パーセント以上はBEI0.85以下を実現していますし、比較的適合率が低い飲食店であってもそのうちの40パーセントは、BEI0,85以下をクリアしています。
なお、エネルギーの消費割合は、各施設によって異なります。たとえば工場ではそのエネルギー消費量のうちの99パーセントを「照明」が占めていますが、それ以外の施設では「空調」がもっとも大きな割合を占めています。
ちなみにBEIの適合率が比較的低いとされている病院や飲食店では、ほかの施設に比べて「換気」「給湯」の割合が高いとされています。
現在の日本の状況は、決して劣悪なものであるとはいえません。ただ、2024年からはさらなる地球環境の改善を追求すべく、大規模な非住宅建築物の省エネ基準の見直しが行われます。これから先、非住宅を運営しようと思うのであれば、この2024年の改正を見据えて動かなければなりません。
ただ、省エネ基準の計算は非常に複雑で、時間がかかるものです。そのためこれらの計算は、専門のサポート会社に一任した方がよいでしょう。現在は省エネ基準の計算をするサポート会社も複数誕生しています。
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出典:国土交通省「大規模な非住宅建築物の省エネ基準の引上げについて」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kenchikubutsu_energy/pdf/016_05_00.pdf