一次エネルギーというのは、火力・水力・風力・太陽光など、自然から産出されるエネルギーのことです。
住宅などで実際に消費する一次エネルギー量のことを一次エネルギー消費量と言いい、一次エネルギー消費量計算というのは、住宅の省エネ性能に応じたエネルギー消費量を計算し、いかに省エネルギー化に貢献しているのかを見る指標となるものです。
一次エネルギー消費量計算の対象となるエネルギー消費量というのは、暖房・冷房・給湯・換気・照明の5つの用途における消費量のことです。エネルギーを消費するであろうテレビや掃除機などの家電製品や台所周りの家電製品のエネルギー消費量については考慮しないものとしています。
省エネルギー基準というのは、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(通称:建築物省エネ法)に定められている基準を指します。平成28年(2016年)に改正された建築物省エネ法の基準が現行の省エネ法の基準となり、これを満たす住宅の設計や施工をする必要があります。
現行の省エネルギー基準を満たすレベルは等級4ということになります。等級5の基準を達成するには等級4からさらに10%エネルギー消費量をマイナスにする必要があります。この基準は低炭素認定住宅の誘導基準というレベルになります。
また、等級6の基準を達成するには、等級4の基準から20%以上一次エネルギー消費量を削減する必要があり、これを達成することでZEH基準を満たすことになります。
暖房・冷房・給湯・換気・照明の5用途ごとにエネルギー消費量を計算しますが、それぞれの設備機器についての能力や仕様を把握して入力することになります。
一次エネルギー消費量の計算が終わったら、設計上の一次エネルギー消費量が、基準となる一次エネルギー消費量以下にすることが最低限必要になります。さらに、必要とする等級によって削減率が決まっているので、削減率の確認をする必要があります。
一次エネルギー消費量計算をするためには、使用する設備機器の能力や仕様だけではなく、外皮平均熱貫流率(UA値)や冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)、暖房期の平均日射熱取得率(ηAH値)を計算して求めておこないます。この値を求めるための計算を外皮計算と言います。
建築用語として使われている外皮というのは、住宅の外周部分(外壁・屋根・窓等)のことを言います。外皮の断熱性能によって外皮性能が異なり、一次エネルギー消費量にも影響してくるのです。但し、一次エネルギー消費量計算においては、外皮面積を求めずに外皮性能を評価する方法もあります。
外皮の性能を上げることは、熱損失を減らすことに直結します。つまり、断熱性能が悪い住宅はいくら暖めても熱が外に逃げていくため、さらに暖房を強化してエネルギーを浪費します。悪い断熱性能を向上させることで一次エネルギー消費量の削減が実現できます。
対象となる住宅の断熱性能を数値で表すために外皮計算をします。外皮の断熱性能を計算するためには、使用する断熱材の熱伝導率を調べ、使用するサッシなどの熱貫流率や日射熱取得率、方位などを特定します。断熱材の場合はそれぞれの部位によって厚さや熱伝導率が異なる場合が多いので、それぞれに正しい数値を入れなければなりません。
また、サッシなども、ガラスの種類や色、ガスの封入の有無についてもチェックし、メーカーカタログを基に正しい数値を入力します。
外皮計算をすることで、外皮平均熱貫流率(UA値)や冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)、暖房期の平均日射熱取得率(ηAH値)がわかります。
一次エネルギー消費量の計算は、通常の場合、計算プログラムを使います。
計算プログラムは無料のものから有料のものまで様々ありますが、より正確な計算結果を求める場合は、基本設備を選ぶだけで計算ができる簡易版ではなく、詳しい仕様を入力して計算する詳細版を使用します。簡易的に計算した結果が、要求する評価に満たない場合などは、より詳細な条件設定をした上で計算することで、求める評価結果につながる場合もあります。
どちらを選択するかは、入力者の判断に委ねられます。
一次エネルギー消費量計算プログラムはネット検索で探し出す方法がありますが、入力方法や使い勝手などはすぐにはわかりません。
信頼性が高く、入力しやすく計算結果がわかりやすいのは一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センターでサポートをしている「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」です。
このプログラムで計算した結果は、公的な届出や補助金の申請にも利用することができます。
「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」の使い方は比較的簡単にできます。
「エネルギー消費性能計算プログラム」をクリックすると使用許諾条件を確認する画面になります。内容を確認した上で「使用許諾条件に同意する」をクリックすると計算のための入力画面に進みます。「簡易入力画面」と「詳細入力画面」を選択します。
その先は順番に数値を入力し、該当項目を選択することの繰り返しで、全て入力が済んだ後に「計算」をクリックするだけで計算結果を確認することができます。
入力に不安がある場合は入力ガイドを閲覧することで解決できます。
「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」の入力項目は大きく分けて11項目あります。
項目を列挙すると、「基本情報」「外皮」「暖房」「冷房」「換気」「熱交換」「給湯」「照明」「太陽光」「太陽熱」「コージェネレーション」の11項目です。該当しないものは入力する必要がありませんので、住宅によっては入力項目が7~8項目にとどまる場合もあります。
最初の項目は「基本情報」です。住宅の主たる居室面積や地域区分や年間日射地域区分を指定します。他の計算プログラムも計算項目が同じであれば、大きな違いはないはずです。
続いて「外皮」です。外皮面積や外皮平均熱貫流率など、外皮計算で求めた数値を入力します。
「暖房」から先は設備関係なので実際に使用する設備の仕様やカタログ数値を入力します。
「太陽光」から先は該当する場合のみ必要箇所を入力します。すべては質問に答えるような感覚で入力をしていくので、入力漏れさえなければ計算に進むことができます。
計算プログラムに入力する大項目の中にはさらに細分化された入力項目があります。それぞれの項目は事前に調べる項目や、計算で求める項目があります。
「地域区分」は「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令における算出方法等を定める件」国土交通省告示第265号で規定されています。それぞれの都道府県市町村における地域区分が明記されているので、該当する地域区分を調べておきます。地域区分1は北海道など寒い地域で、地域区分8は九州など暖かい地域になります。
また、「年間日射地域区分」は年間平均の日射が多い少ないで5つの区分を設定しています。A1区分は日射量が少ない地域、A5区分は日射量が多い地域になります。
地域区分と年間日射地域区分の調べ方は、ネット検索で可能です。地域区分で検索して「地域区分新旧表・国土交通省」というPDFファイルを開きます。建設地の市町村を見つけて、該当する地域の区分を知ることができます。
また、年間日射地域区分は、検索結果の中から「都道府県名 告示別表第10で定める地域の区分 年間の…」というPDFファイルを開くと、該当する地域の年間の日射地域区分がわかります。
外皮面積というのは、外気に直接接する面の面積です。但し、天井断熱を採用した建築物における天井面や、床断熱を採用した建築物の床面についても、外気に直接接してはいませんが、この場合では外皮面積に含まれることになります。
外皮面積のことを専門用語で「熱的境界に接している面の面積」と言います。外皮面積に該当する面の面積を特定して計算することで必要な外皮面積を求めることができます。
多くの場合、建築CADに付随した自動計算を利用して求めることで、他の必要な計算を同時に行なうことができます。
建築物全体の外皮性能基準のひとつに外皮平均熱貫流率UA値があります。
これは、屋内の熱が外皮を通じてどれくらい移動するのかを表した指標です。この数値が大きいと熱が多く移動することを意味し、熱の損失が大きいことを示しています。つまり、冬の場合、いくら暖房をしても室温が上がりにくいという意味になります。
この数値を小さくすることで断熱性能が高くなり、一次エネルギー消費量の削減に有効と言えます。
冷房期の平均日射熱取得率ηACというのは、冷房を使う時期において建築物が取得する日射量の合計を外皮面積で除した数値です。
窓などから直接侵入する日射による熱と、窓以外の部分が熱伝導によって侵入する熱が大きく影響してくるため、断熱性能の設定値を考慮した断熱素材や厚さを考慮し、窓に使用するガラスが日射を遮蔽する性質なのか日射を取得しやすい性質なのかを考慮する場合があります。
省エネ基準では冷房期の日射熱取得率の基準値が設けられているため、計算で得られた数値が基準以下であることを確認する必要があります。
暖房期の平均日射熱取得率ηAHは、暖房を使う時期にいて建築物が取得する日射量の合計を外皮面積で除した数値です。
省エネ基準では暖房期の日射熱取得率の基準値は設けられていませんが、暖房期はいくらでも日射を取得することで省エネにつながるため、気になる数値というだけでなく、一次エネルギー消費量計算でも必要になる数値です。
「主たる居室」というのは、就寝する部屋を除いて、日常生活をする上で1日のうち長く在室している居室のことを言います。
例えば、リビングやダイニング、キッチンなどです。また、主たる居室に該当しない居室のことを「その他の居室」と言い、時間的に長く在室している寝室や子供部屋など言います。さらに、居室以外の室のことを「非居室」と言います。玄関やホール、洗面脱衣室やトイレなどが該当します。
一次エネルギー消費量計算をする場合は、それぞれの居室面積を入力する必要があります。
「主たる居室」の面積を求める際の注意事項としては、同じ用途の室が複数ある場合は、該当するすべての床面積の合計になります。
また、キッチンという部屋名称でなくても、コンロやその他調理設備や機器を設けた室はキッチンとして扱います。
床面積を計算する場合、間仕切り壁やドア等で区切られた区画の面積であることが重要です。
また、リビング吹抜けやリビング階段がある場合は吹抜けや階段の面積だけでなく、空間的につながっている階上のホールなども床面積に加えるなど一定の計算ルールがあります。
冷暖房、換気、熱交換、給湯、照明などの設備の仕様入力は、プログラムの各項目から選択する形です。
冷暖房設備にはエネルギー消費効率の入力項目がありますが必須ではなく、規定値を用いることもできます。もし、機器が決まっていてカタログ数値を入力する場合は、「エネルギー消費効率」の区分を選択します。
換気に関しても、設備の方式を選択します。ダクト式換気設備を選択した場合は、「比消費電力」の入力をして、より正確な評価をすることができます。熱交換型換気設備を選択した場合、「温度交換効率」や「温度交換効率の補正係数」なども入力することができます。入力をしないで規定値を用いることもできますが、補正係数等を正確に入力した方が正確に評価されます。
給湯に関しては設備の種類が多く、それぞれに効率の良い方式を採用することで省エネ評価が高まります。その他にも配管方式、水栓の評価についてもわかる範囲で正確に入力することが大事になります。
設備の詳細が決まっていない状況では、細かい部分で「評価しない」を選択して計算に進むことも可能です。その状態での評価をチェックすることで、現状での評価を知る事ができます。設備の詳細が決まった時点で再計算をすることで正しい評価が得られます。
一次エネルギー消費量計算結果は5項目について記載されています。「設計一次エネルギー消費量等」「判定」「BEI」「仕様」「参考値」の5項目です。それぞれの内容について説明します。
ここでは、住宅の名称、床面積、地域の区分などの基本情報が記載されている他に、基準一次エネルギー消費量と設計一次エネルギー消費量をそれぞれの設備ごとに数値が記載されています。数値の単位はメガジュールMJでの記載です。
最終的には建築物全体として消費するエネルギーの合計の数値がその後の判定につながります。
一次エネルギー消費量計算をする最大の目的は判定結果を知ることです。
ここでは、先のメガジュール単位の数値をギガジュールGJ単位に置き換えて、「建築物省エネ法」と「エコまち法」の基準に照らし合わせて判定をしています。設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量を下回ることで基準の達成か非達成かを判定して記載しています。
BEIは、実際に建設する予定の建築物の設計一次エネルギー消費量を地域条件や使用条件、用途などによって定められている基準一次エネルギー消費量で除した数値です。
この数値が0.8というのは基準一次エネルギー消費量を20%削減したという意味になり、0.75だと25%削減という意味になります。
ちなみにZEH基準は20%削減なので、BEIは0.8以下にしなければなりません。ZEH+の基準は25%削減ですからBEIは0.75以下にする必要があります。
住宅タイプの仕様について記載されています。計算プログラムで入力した項目について仕様や数値、選択区分などが記録されています。
設計二次エネルギー消費量について計算した結果を参考値という形で記載されています。公的な届出や補助金の申請に必要な数値ではありませんが、今後は一次エネルギー消費量と連動して考えていかなければならない数値になります。
一次エネルギー消費量の計算結果は様々な公的申請に添付する他、各種補助金申請においても使用します。
フラット35の適合基準の中で省エネルギー性を選択した場合、一次エネルギー消費量等級4もしくは5に適合しなければなりません。BELS申請においても同様に計算書の内容や数値を記入して提出します。この書式には削減率を明確に記載します。
また、2025年以降は省エネ基準義務化に対応しなければ住宅建築ができなくなります。一定の省エネ性能を確保することが必須になります。
その際、設備機器等の一次エネルギー消費量が評価の対象になります。また、外皮計算で求めたUA値やηAC値が地域区分に応じた数値をクリアしなければなりません。このような条件に適合することは特別なことではなく、これからは当たり前になるでしょう。