外皮とは、建物の内部と外部を分ける境界部分を指します。具体的には、外壁、窓、床、屋根、天井など、室内と室外を隔てる部分全体のことを言います。外皮性能とは、この外皮の断熱性、気密性、遮音性、耐久性の性質や能力を数値で示したものです。特に断熱性は、室外の暑さや寒さ、日射の影響で室内の温度が安定しており、熱を失わない状態を示します。室内温度差の少ない家は断熱性や気密性が高く、外部の環境の影響を受けにくいのが理想的な住宅です。また、外皮性能に関しては省エネ基準が設けられており、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のため、構造や設備に関する基準として定められています。
外皮平均熱貫流率(UA値)とは、住宅の熱が外へどれくらい逃げやすいかを示す指標です。具体的には、室内と外気との間における熱の伝わりやすさを数値で表したものとなります。計算の方法は以下の通りです。建物内外の温度差を1度とした場合、建物内部から外へ逃げる単位時間あたりの熱量を外皮の面積で除した値となります。この際、換気による熱損失は考慮しません。
UA(W/㎡・K) =(単位温度差当たりの外皮総熱損失量)/(外皮総面積)
このUA値が小さいほど、熱が外へ逃げにくく、断熱性能が高いことを意味します。断熱性能を上げるためには、壁や床、天井に高性能な断熱材を使用したり、窓を二重構造にしたりすることが有効です。
平均日射熱取得率(ηAC値)とは、冷房期における太陽日射が室内に入りやすさの指標です。日射が室内へどれだけ入りやすいか、建物内でどれだけの熱量が取得されるかを示しています。具体的には、単位日射強度ごとに建物内部で取得する熱量を、冷房期間全体で平均し、その後外皮の面積で除した値となります。
ηAC=(単位日射強度当たりの冷房期の総日射熱取得量)/(外皮総面積) ×100
ηAC値は、太陽日射が直接窓から侵入する熱量と、窓以外の部分から日射の影響で熱が伝導して侵入する熱量の両方を評価します。この指標の値が小さい場合、それは日射の侵入が少なく、建物の遮蔽性能が高いことを意味します。これは、夏場の冷房負荷を減少させるための重要な要素です。
外皮はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。以下ゼッチ)とセットで語られることが多くあります。その理由は、以下の2つです。
強化外皮基準は、各地域ごとに設定されている外皮性能(断熱性能)の基準を、通常の省エネ基準よりもさらに高い水準で要求しています。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、その家で使われる年間の一次エネルギー消費量が正味でゼロになることを目指しているため、住宅の外皮性能を強化し、断熱性能を高めることが必須です。
このように、外皮とZEHは密接な関係にあり、持続可能な社会をつくるうえで、ともに欠かせない要素となっています。
住宅の省エネルギー基準には以下の2つがあります。これらは住宅の省エネルギー性能を示すうえで、極めて重要な指標です。
地域ごとに外皮性能の基準値が定められています。地域区分とUA値の基準値は以下の通りです。
地域ごとの外皮性能は、住宅が位置する地域の気候特性や気温変動を考慮した上で、その地域で必要とされる断熱性や遮熱性を示す基準です。この基準に基づいて住宅を建築・設計することで、エネルギーロスを最小限に抑え、効率的に省エネを実現できます。
ちなみに、ZEHにおいてはさらに厳しいUA値の基準が設けられています。
一次エネルギー消費量は、建物のエネルギー消費性能を示す評価指標です。これは、建物の利用に伴うエネルギー消費量を表します。具体的には暖冷房設備、換気設備、給湯設備、照明設備、家電などのエネルギー使用を示すもので、この数値が小さいほど省エネの程度が高いと評価されます。暖冷房のエネルギー消費は、外皮性能が大きく影響するため、一次エネルギー消費量の計算値を改善するためには外皮性能の強化が欠かせません。
基準一次エネルギー消費量は、特定の住宅の省エネ基準に適合しているかを判断するための基準として設定されています。これは、建設地の地域区分や床面積、使用する設備機器の種類などの条件に応じて変動します。例えば、寒冷地域の住宅は暖房が主要なエネルギー消費となるため、基準が温暖地よりも大きく設定される傾向があります。計算結果として、設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量を下回る場合、その住宅は省エネ基準に適合していると判断できます。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、国の政策として推進される省エネ住宅です。ZEHは、住宅で年間に消費される一次エネルギーの量がゼロとなる必要があります。これを実現するために、以下の2つのステップが必要です。
具体的な外皮性能基準として、地域によって異なる数値が設定されています。
これらの基準値を満たすことで、ZEHとしての住宅の基準に適合すると言えます。
BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)は、建築物省エネルギー性能表示制度の略称です。これは、新築および既存の建築物の省エネ性能を第三者評価機関によって認定する制度となっています。平成28年4月からは住宅も対象となり、国の公式な省エネ性能表示制度として位置付けられています。BELSは、 外皮性能、 一次エネルギー消費量を証明する公的な手段であり、信頼性があります。
外皮性能を高める具体的な方法として、以下の3つがあげられます。
これらを検討することにより住宅の断熱性能が上がり、熱が外部に伝わりづらくなります。そうすることで冷暖房の負荷が軽減するため、光熱費の節約や環境配慮に寄与します。
断熱材の性能を高めることで、外皮性能は向上します。断熱材が高性能になると、外皮部分における熱の逃げが少なくなるからです。たとえば、小屋裏や床下はスペースに余裕があるため、断熱材の厚みを大きくすることが容易にできます。また、スペースが限られている外壁は同じ厚みでグレードを上げることで有効です。適切な断熱材の選択により、外皮性能を効果的に高められ、これが住宅のエネルギー消費の低減に寄与します。
高断熱サッシを使用することで、外皮性能は大きく改善します。その理由は、外部からの熱の侵入は、壁や天井からよりも窓からの方が多いからです。高断熱サッシが、外部の熱の侵入や室内の熱の逃げを抑制することで、夏の冷房や冬の暖房の効率が上がり、エネルギーコストが削減できます。加えて、居住者の快適性も向上し、室内の湿度や結露の問題も軽減されるのも大きな利点です。高断熱サッシは、快適な室内環境を作りつつ、家計にも環境にも優しい選択となります。
気密性を強化することは、エネルギーコストの削減と室内の快適性を向上させる鍵となります。気密性が高い住宅は、外部の冷暖気の侵入を最小限に抑え、室内の温度を一定に維持することができるからです。これにより、冷暖房の効率が向上し、エネルギーの無駄遣いを減らせます。さらに、外部の騒音や花粉、ホコリの侵入も低減し、室内の空気環境を良好に保てるのも大きな利点です。ただし、気密性が高過ぎると室内の空気が滞留し、換気不足になるリスクがあるため、換気や風通しには注意して計画しましょう。気密性を考慮した住宅設計は、住まいの快適性と経済効果を両立させる大きなメリットを提供します。
外皮性能が高い住宅には補助金があります。代表的な補助金は以下の通りです。
ZEHは、国が推進する省エネ住宅の補助金制度で、一次エネルギー消費量の削減や再生可能エネルギーの導入、外皮性能の向上を基準としています。補助金額や申請期間は以下の通りです。
ZEH補助金の内容
また、この事業にはさらに性能が高いZEH+(ゼッチプラス)があります。ZEH+の補助金の内容や性能の基準は以下の通りです。
ZEH+補助金の内容
また、以下設備を導入することで補助金が加算されます。
次世代ZEH +実証事業も、ZEH化等支援事業と同様にZEH化を推し進める事業です。要件や事業期間が若干異なります。
次世代ZEH+補助金の内容
また、以下設備を導入することで補助金が加算されます。
次世代HEMS実証事業は、家庭のエネルギー消費をより効率的かつ最適化するための新しい技術やシステムを試験・実証する事業です。新しい技術や設備を活用したエネルギー消費の効率化を推進します。
次世代HEMS補助金の内容
また、以下設備を導入することで補助金が加算されます。
外皮性能の理解は、今後の住宅や建物の計画において必須となる知識です。省エネルギーと快適な居住環境を実現するためには、外皮性能を高める工夫や取り組みが不可欠です。外皮性能を強化した住宅は、光熱費削減や環境負荷低減に寄与し、なおかつ健康で快適な住環境を手に入れる手助けとなります。